古今和歌集10

古今和歌集巻第十


【物名】

0422 藤原としゆきの朝臣
 心から花のしづくにそぼちつつ うくひずとのみ鳥のなく覧

0423 藤原としゆきの朝臣
 くべきほどときすぎぬれや まちわびてなくなるこゑの人をとよむる

0424 在原しげはる
 浪のうつせみればたまぞみだれける ひろはば袖にはかなからむや

0425 壬生忠岑
 たもとよりはなれてたまをつつまめや これなんそれとうつせみむかし

0426 よみ人しらず
 あなうめにつねなるべくもみえぬ哉 こひしかるべきかはにほひつつ

0427 つらゆき
 かづけども浪のなかにはさぐられで 風吹くごとにうきしづむたま

0428 つらゆき
 今いくかはるしなければ うぐひすも物はながめて思ふべらなり

0429 ふかやぶ
 あふからもものはなをこそかなしけれ わかれんことをかねておもへば

0430 をののしげかげ
 あしひきの山たちはなれゆくくもの やどりさだめぬ世にこそ有りけれ

0431 とものり
 みよしののよしののたきにうかびいづる あはをかたまのきゆとみつらん

0432 よみ人しらず
 秋はきぬ 今やまがきのきりぎりすよなよななかむ 風のさむさに

0433 よみ人しらず
 かく許あふひのまれになる人を いかがつらしとおもはざるべき

0434 よみ人しらず
 人めゆへのちにあふ日のはるけくは わがつらきにや思ひなされん

0435 僧正へんぜう
 ちりぬればのちはあくたになる花を 思ひしらずもまどふてふかな

0436 つらゆき
 我はけさうひにぞみつる 花の色をあだなる物といふべかりけり

0437 とものり
 しらつゆをたまにぬくとや ささがにの花にもはにもいとをみなへし

0438 とものり
 あさつゆをわけそぼちつつ 花みんと今ぞの山をみなへしりぬる

0439 つらゆき
 をぐら山みねたちならしなくしかの へにけん秋をしる人ぞなき

0440 とものり
 あきちかうのはなりにけり 白露のをけるくさばも 色かはりゆく

0441 よみ人しらず
 ふりはへていざふるさとの花みんとこしを にほひぞうつろひにける

0442 とものり
 わがやどのはなふみしだくとりうたん のはなければやここにしもくる

0443 讀人しらず
 ありとみてたのむぞかたき うつせみのよをばなしとや思ひなしてん

0444 やたべの名実
 うちつけにこしとや花の色をみん をくしら露のそむる許を

0445 文屋やすひで
 花の木にあらざらめどもさきにけり ふりにしこのみなる時も哉

0446 きのとしさだ
 山たかみつねにあらしのふくさとは にほひもあへず花ぞちりける

0447 平あつゆき
 ほととぎす峯の雲にやまじりにし ありとはきけどみるよしもなき

0448 よみ人しらず
 空蝉のからは木ごとにとどむれど たまのゆくゑをみぬぞかなしき

0449 ふかやぶ
 うばたまの夢になにかはなぐさまん うつつにだにもあかぬ心を

0450 たかむこのとしはる
 花の色はただひとさかりこけれども 返す返すぞ露はそめける

0451 しげはる
 いのちとてつゆをたのむにかたければ 物わびしらになくのべのむし

0452 かげのりのおほきみ
 さ夜ふけてなかばたけゆく久方の月ふきかへせ 秋の山かぜ

0453 真せい法し
 煙たちもゆともみえぬ草のはを たれかわらびとなづけそめけん

0454 きのめのと
 いささめに時まつまにぞ日はへぬる 心ばせをば人に見えつつ

0455 兵衛
 あぢきなし なげきなつめそ うき事にあひくる身をばすてぬものから

0456 安倍清行朝臣
 浪のをとのけさからことにきこゆるは 春のしらべやあらたまるらん

0457 かねみのおほきみ
 かぢにあたる浪のしづくを 春なれば いかがさきちる花とみざらむ

0458 あぼのつねみ
 かのかたにいつからさきにわたりけん 浪ぢはあとものこらざりけり

0459 伊勢
 浪の花おきからさきてちりくめり 水の春とは風やなるらむ

0460 つらゆき
 むばたまのわがくろかみやかはるらん かがみのかげにふれるしらゆき

0461 つらゆき
 あしひきの山邊にをれば 白雲のいかにせよとかはるる時なき

0462 ただみね
 夏草のうへはしげれるぬま水の ゆく方のなきわがこころかな

0463 源ほどこす
 秋くれど月のかつらのみやはなる ひかりを花とちらすばかりを

0464 よみ人しらず
 花ごとにあかずちらしし風なれば いくそばくわがうしとかは思ふ

0465 しげはる
 春霞なかしかよひぢなかりせば 秋くるかりはかへらざらまし

0466 みやこのよしか
 流れいづる方だにみえぬ涙がは おきひむ時やそこはしられん

0467 大江千里
 のちまきのをくれておふるなへなれど あだにはならぬたのみとぞきく

0468 僧正聖宝
 はなのなかめにあくやとてわけゆけば 心ぞともにちりぬべらなる
古今和歌集10【物名】


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